2022年12月27日
12月21日、美術科1年生と理数科1年生が熊本県立球磨工業高校を見学させていただきました。
球磨工業高校には全国でも珍しい伝統建築科と伝統建築専攻科(高校卒業後)があり、日本の伝統技術について学び、一般大工、宮大工、文化財修復などのエキスパートを養成する科です。
本校SSH第Ⅳ期から、芸術と科学を融合したカリキュラム開発を行っており、文化財保存講義や九州国立博物館見学など行ってきました。今回、日本の伝統建築がどのように守られ、技術が継承されているのかを実際に見て学ぶことができ、同じ高校生や専攻科の学生さんが日本の伝統建築の継承のために研鑽を積んでいる姿を目の当たりにして、自分自身の学びを振り返るよい機会となりました。
80人近い人数で訪問させていただきましたので、美術科と理数科をミックスした4グループに分かれ見学させていただきました。
それぞれ専門の先生からの講義や実演、ありがたいことに実験や体験もさせていただきました。
(1)「日本の建築について」
奈良の枕詞である「あおによし」のお話からはじまり、文学的な導入から古建築の世界に引き込まれた生徒が多くいました。奈良時代の建築物の本来の姿は鮮やかな朱と緑が中心で、スライドでも貴重な資料をたくさん見ることができました。また、例を挙げながら神社の鳥居の位置と日の出・日没の関係、さらに厳島神社における平清盛など施主の意向等を図や写真で説明いただきました。文化を継承するとは、何百年、または千年を越える時代を経て、美しさや思いを共感できることにあると感じました。
(2)「大工道具について」
ずらり並ぶと壮観です。初めて見る道具もたくさんありました。
生徒も体験させていただきました。中学の技術科以来という生徒がほとんどでした。
珍しい形の鉋も使わせていただきました。
美術科の生徒もびっくり大きさの鋸(のこぎり)でした。
(3)「規矩(きく)術、継手(つぎて)、仕口(しぐち)について」
規矩術とは大工独自の数学のことです。
例えば、下の写真では、平面上では角度45度の2枚の板が合わせると直角になるけれど、屋根のように傾斜がついた場面では同じようになるか、といった内容を模型を元に説明いただきました。この場面ではやはり理数科の生徒が積極的に質問をしていました。
下の写真は、木材同士を接続してより長く大きな部材にする方法を実物を用いて説明された場面です。これは建築物の修復で、木材の一部に損傷がある場合、新しい木材と組み合わせる時などにも使用されます。まるで立体パズルのようでした。
生徒が乗っているのは、継いだ木の強度を確かめる実験です。足の間に小さく映っている栓(込み栓)があるのとないのではずいぶん変わります。文章や写真だけでは難解な建築用語も、実際に目にするとしっかりその役割や意味が伝わってきます。
(4)「宮大工の技術と技能について」
球磨工業高校には宮大工として実際に文化財修復に関わっていらした先生もいらっしゃいます。平城京跡大極殿、興福寺中金堂復元、東大寺法華堂の修復など、聞いただけで恐れ多くなります。そして、今回学校見学の補助をしていただいた伝統建築専攻科の皆さんも、先生方に続いていくのだろうと、同じ熊本県の人間として誇らしく思いました。
写真は原寸図といって、社寺建築の特徴である屋根の反りや部材の収まりを実物大で書く方法を専攻科の皆さんに実演していただいた場面です。
この写真は槍鉋(やりがんな)という古代の鉋で、前述の鉋の前に使用されていたものです。身体を土台として、正確な平面をつくる宮大工の技能にただただ「すごい!」という感想を持ったことでした。
最後にホールに集合して全体を振り返り、見学を終了しました。
理数科と美術科の交流、そして球磨工業高校の建築科、伝統建築科、伝統建築専攻科の先生方や生徒の皆さんとの出会いが、そう遠くない将来それぞれの専門分野におけるプロフェッショナルとしての再会につながることでしょう。大人の世界では異業種交流会が盛んに行われていますが、高校生のうちに経験しておく良さも実感した今回の研修でした。
前後しますが、午前中は事前学習を兼ねて国宝青井阿蘇神社を訪問しました。建物だけでなく、和傘の演出も生徒たちは美しさにこころを打たれていました。
最後に生徒たちの感想を一部紹介します
★理数科
これまでの自分は、あまり建築に興味がなかった。それは、設計などの細々した作業やミリ単位の技術が苦手だからだ。中学の技術の時間で本棚を作ったのだが、シンプルなものをつくるだけでも集中力が必要だった。だからこそ、この研修をするまで、自分は建築と無縁だと思っていたが、それはちがった。理数科として研修を受けたときに建築にも科学と深い関係があるのだと実感した。科学的に関係がある。ということは、建築から学べることもあるし科学から建築へ応用できることもあるということだ。例えば顔料。高校に入ってから顔料が化学物質であることを体感してきていたが今日の研修でも実感することができた。朱色の成分には鉛や鉄などがあり、なぜその物質で鮮やかな発色を産み出すことができるのか。また、木にそのような鉱物由来の顔料を塗ることでなにか利点があるのか。など新しい発見や疑問をもつことができる。二つ目として物理との関係が深いと思った。建築は重い木材をきれいに組み上げ、なおかつ丈夫でなければならない。そこで木材の特性を伸ばすきっかけになるものが力の分散だと思った。日本の文化をそのような観点で観察することで科学に生かせることがあるのではないかと思った。以上のように今回の研修を終えて、自分の得意分野(理数科)と一見関係があまり無さそうな身近なことを様々な観点でみることで学びとれること、応用できることがあると知った。二年では各自研究を進め、そのときにも身の回りの発見からあっ!というようなユニークで賢い発想ができるように日々いろんなところで物事を結び付けて考えるようにしたい。
★美術科
私はこれまで、自分の興味のある分野以外は当事者意識を持たずにただ凄いな、くらいにしか見ておらず疑問も浮かぶことがありませんでした。今回伝統建築の受け継がれ方や建築方法、技術面など様々な見方を教えていただけたことで、他はどうなっていてどんな工夫が施されているのかと次々に興味のある所が増えていきました。専門的な所だからこそ、その方々が何を考えて建築物を造られたのかをより深く理解することができるのだと学ぶことができました。わからないということで立ち止まるのではなく、知的好奇心を持って疑問を見つけ、そしてどんどん先人の方々の考えや工夫を自分自身に取り込んで生かして行きたいです。
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